Silky

海外ドラマを字幕で見ていると、聞き取れた英語の台詞と、表示された日本語字幕の意味がずれている場合がありませんか?そんな時、「誤訳発見!」と周囲に吹聴したくなる気持ち、よく分かります。

ですが、ちょっと待ってください。日本の字幕翻訳界には、業界が何十年も前に決めた暗黙のルールがあり、大手のメディアは基本的にそのルールに従って字幕を制作しているのです。

そのルールたるや、細かいの何の。中には、不合理とさえ思えるルールもあります。ですが、字幕翻訳の世界で生きている翻訳者は、このルールを破るわけにはいきません。

そこで、今日は、この字幕翻訳のルールを皆様にご紹介します。

 

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字幕制作のルール

字幕作成の大原則は、「台詞まわし1秒あたり、4文字(全角)の日本語しか表示しない」ということです。

一体、どういうことか?以下、字幕翻訳者が実際に行うべき作業と共に、順を追って説明します。

ハコ割り

現在、字幕翻訳に用いられているソフトは、SSTというお高いソフトが主流です。字幕翻訳者は、題材となる素材(動画)を受け取ったら、まずはその素材をSSTに読み込ませます。

出典:http://canvass.co.jp

次に、字幕をつける部分をSSTでマーキングしていくのですが、その作業をハコ割りと言います。

ハコ割りの大原則は、「役者が口を開いて音を発した瞬間から、その台詞が聞こえなくなる時点までの長さに、0.5秒程度を加えた長さ」となります。

これには例外があります。

まず、台詞が長い場合は、その台詞を、役者の口の動きや意味上の区切りに合わせて、適当なところで途中区切ります。というのも、1枚の字幕で表示できる日本語の数には、上限があるからです。

1枚の字幕には、①2段まで、②各段に13~14文字しか表示できません。

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つまり、最高でも合計26文字~28文字しか表示できないのです。よって、これを超える台詞は、途中で区切ります。

(この区切りの作業は、論理的には、字幕をつけてからでないと分からない作業ということになります。ですが、慣れてくると、ハコ割りの時点で「超えるな」と予想ができるようになります。ですので、ハコ割りの時点で、先に区切っておく人が多いです。)

次に、台詞が流れている途中で、背景が切り替わってしまう場合。この場合は、台詞の流れよりも、背景の切り替わりが優先されます。

つまり、背景の切り替わりに合わせて、区切りを入れるのです。場合によっては、背景の切り替わりが完了してから、初めて字幕を入れるというような処理を行う場合もあります。

ハコ割りの作業は、パソコンにヘッドホンを装着して、静かな中で行う地味な作業です。通常は、1素材(60分程度)の全てを、まずは一気にハコ割りする人が多いです。

字幕入れ

ハコ割りが終わると、いよいよ字幕を入れていきます。

仮に、元の台詞が「Where is my baby?」の場合。台詞まわしの早さによりますが、早い場合は1~1.5秒くらいのハコ割りしかできないでしょう。1秒あたり4文字が上限ですから、この台詞に付けられる日本語字幕は、4~6文字ということになります。

すると、「私の赤ちゃんはどこ?」は絶対に入りきらないということが分かります。こういった場合、「赤ちゃんは?」とか「どこ行った?」等の短い字幕が入れられます。

一人の役者の台詞の意味内容を、1枚の字幕で表現できるならば、この文字制限はそんなに苦しくありません。ですが、時にはどうしても、それができない場合があります。

その場合は、Aさんの長台詞と、それに答えるBさんの台詞をそれぞれ調整して、全体で意味が通るように訳します。

例えば、元の台詞の直訳が、A「11時までに裁判所に行かなきゃ。裁判があるんだ。」だとします。これに、Bが「知ってる」と答えたとします。

このやりとりを、両者短くするために、A「11時までに裁判所に行かなきゃ。」B「裁判か」と訳したりするのです。

Bは「裁判」という言葉を口にしていませんので、ヒアリングができる人は違和感を覚えるでしょう。ですが、字幕ルールの制限の中で、必要な情報を字幕に入れるためには仕方がないのです。

ところで、字幕入れのルールは、文字数制限だけではありません。

字幕は2枚までしか連続させてはならない

長い台詞があった場合、直訳では字幕が3~4毎に及ぶ場合があります。その場合、文字数ルールで区切る以外にも、台詞の意味を2枚以内に完結させるというルールがあります。

例えば、元の台詞の直訳が「今日はママが仕事で遅くなって、夕食の準備はできないってパパに聞いていたから、マギーと一緒にハンバーガーを食べに行ったよ」だとします。

これを「外食したよ。」「マギーも一緒にね。」「ママは仕事で遅くなるってパパに聞いたんだ。」といった具合に、短く区切ってかつ意味の通じる訳をあてるのです。訳出しなくとも意味が通じる台詞は、字数制限との関係では割愛されるのが普通です。

その他にも、「カタカナが多すぎてはいけない」「漢字が多すぎてはいけない」「常用漢字以外は使わない/ルビをふる」「2段の字幕の上下の同じ部分にスペースを入れてはならない」「流行語を使ってはいけない」などなど、本当に多くのルールがあります。

もちろん、これらのルールは絶対ではなく、例外はあります。ですので、このルールに従っていない字幕を目にする機会もあるでしょう。ですが、例外を連発する字幕翻訳者は、特に新人の場合、センスがないという烙印を押されがちです。

こんなルールは日本だけ

ちなみに、字幕制作にこんな厳格なルールを設けているのは、日本だけです。何でも、むかーしむかし、字幕制作者達が寄り集まって、ストップウォッチ片手に「読み切れる字幕の文字数」を検証したんだそうです。ほんとかいな。

ですので、韓国語字幕や中国語字幕を見ていると、文字制限など関係なく、ソース言語に忠実な訳があてられています。そのため、時には読み切れない早さで字幕が切り替わってしまうこともありますが、それで問題は無いようです。ネイティブなら読み切れるのでしょう。

ここからは私見ですが。

日本の字幕ルールが何十年前に考えられたものかは知りませんが、当時と今では、検証の前提条件が大きく異なるはずです。

今は、文字をすらすらと読める人がほとんどです。テレビも大型化し、文字がつぶれることなく表示できる日本語数も増えたはず。

それにもかかわらず、旧態依然とした字幕制作を続けている日本の業界。大丈夫でしょうか。NetflixやHuluなどの外資の力が圧力をかけて、この古くさいルールにメスを入れて欲しいものです。

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字幕翻訳者になりたくて

そもそも、なぜ私Silkyがそんなルールを知っているかと言いますと。私には一時期、字幕翻訳者を目指した時期があったからです。

字幕翻訳者になるためにはどうすればいいのか?調べた結果たどり着いた先は、某字幕制作会社が主催する字幕翻訳者の育成講座でした。

およそ1年ほど、高い授業費を払いながらその講座に通いました。

私のクラスのクラスメートは私を含めて5人。その内の3人は、ソース言語(和訳前の言語)のネイティブ・スピーカー。

正直、その方たちの日本語は決して完璧ではありません。むしろ、日本語の字幕翻訳者になるにはまだまだ日本語の勉強が足りないという状態でした。

ですが、スクール側にはそんなこと関係ありません。「ソース言語のネイティブ・スピーカーで修了してデビューした方もいますよ」という甘い言葉で、その方たちから受講料を搾取していました。

結論から言いますと、1年通った後、私は字幕翻訳者になる夢を諦めました。理由はいくつかありますが、主な理由は以下の二つです。

  • プロになれたとしても、仕事を定期的に獲得できる保証は一切ない
  • プロになるため必要な”言語のセンス”が、私にはない

字幕翻訳者になりたい人へ

最後になりますが。海外ドラマが好きな方なら、字幕翻訳者になりたいと思ったことがあるかも知れません。ですが、結論として、字幕翻訳者とりわけ英語以外の言語をソース言語とする字幕翻訳者は、目指すことをお勧めしません。

これは、私の通った講座の講師も言っていたことですが。英語以外の言語(多言語といいます)は、圧倒的に受注量が少ないのです。そのくせ、多言語の字幕翻訳者は有り余っているのが現状です。

よって、何とか講座を修了し、プロデビューの機会を与えられたとしても、その後の仕事獲得は極めて困難だと考えた方がよいです。

また、ソースが多言語の素材も、まずは英語に訳され、その後、色々な多言語に訳されるという道をたどることが多くなっています。Netflix等が、ソース言語にとらわれずに色々な言語の字幕を提供できているのも、そういった流れで字幕を作成しているからでしょう。

では、今の時代、どんな人なら字幕翻訳者になれるのでしょうか。

実は、字幕翻訳者が足りていない分野は、ドラマではなく、バラエティーやドキュメンタリーです。

ドラマの字幕をつくる場合は、台本も一緒に渡してもらえる場合が多く、多少ヒアリングに自信のない方でも字幕翻訳はできます。ですが、バラエティーやドキュメンタリーには台本がありません。

よって、バラエティーやドキュメンタリーで話される言葉を一つ残らず聞き取れるくらいヒアリング力があり、かつ日本語の表現力の両方を兼ね備えた方なら、今の時代でも字幕翻訳者になりやすいでしょう。

字幕翻訳者になると決めたら、何をすればよいでしょうか。

昔はプロの字幕翻訳者に「弟子入りすること」が一般的だったようです。ですが現在ではスクールから始めるのが一般的でしょう。よいスクールの探し方は、こうです。

①普段よく見るドラマ等の最後のクレジットを確認して、よく見かける字幕制作会社の名前をチェックする。

②その会社名でネット検索し、スクールを併設していないか確認する。

③スクールがある場合、修了後のデビューが約束されているかを確認する。

つまり、仕事をたくさん請け負っている制作会社と繋がりを持つことがポイントです。

Silky
以上、字幕翻訳のルール、分かっていただけましたか?もちろん、中には本当の誤訳もあります。そういうものを発見した際には、そっと販売元へメールを送ってあげてください。次版で修正されると思います。

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