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ナイト・オブ・キリング(原題:The Night of)は、全8話で構成されたクライム・サスペンスです。続編を制作する予定のなかった本作ですが、本国アメリカでも高い評価を勝ち取り、いまだ続編を望む声がやみません。
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ナイト・オブ・キリングのあらすじ

パキスタン系のアメリカ人ナシール・カーンは、ある日、友達とパーティーに行くために、父親が仕事で使うタクシーを無断拝借して会場へ向かう。『回送中』表示の出し方が分からないナシールは、あちこちで乗客に乗り込まれてしまう。

そんな客の一人が、この先殺される女の子アンドレアだった。アンドレが美人だったこともあり、ナシールはアンドレアだけは追い払わず、タクシーに乗せてあげる。

アンドレアはナシールを気に入ったのか、ナシールを自宅に呼び、一緒に酒を飲む。そのまま二人は寝室へ向かい…。

ナシールが目を覚ました場所はキッチンだった。アンドレアに声をかけるために、寝室へ向かったナシール。そこでナシールが見たものは、22箇所も刺されて息絶えているアンドレアの亡骸だった。

狼狽したナシールは、その場にあった凶器らしきナイフを手に取り、あわてて家を出る。そしてタクシーに乗って帰ろうとするが、交通違反をして警察に止められる。

ナシールが警察の職務質問を受けている最中に、アンドレアの遺体が発見され、近くにいたことを目撃されたナシールは、容疑者として逮捕される。その後、ナシールがアンドレアを殺害したかのように思わせる状況証拠が次々と明らかになる。

逮捕されたナシールを警察署で見かけた弁護士ジョン・ストーンは、ナシールの弁護を買って出る。ジョン・ストーンは決してやり手の弁護士では無かった。ナシールの言動を見て、この事件は冤罪だと確信したジョンは、売名目的もあってこの事件を引き受けたのだった。

ナシールがイスラム教徒であることや、被害者の女の子が富裕層の白人女性であることなどから、地域住民によるイスラム教徒への攻撃が始まる。ナシールの無実を信じる家族も、辛い目に遭わされる。

ジョンは、あらゆる方法を使ってナシールの無実を証明しようとするも、ナシールが犯人であることを指し示す状況証拠が多すぎるため、弁護はうまくいかない。さらには、世間の注目を浴びる事件となったことで、ジョンからナシールの事件を奪おうとする敏腕弁護士も現れる。

一方のナシールは、拘置所生活に馴染み始める。髪をそり、入れ墨を入れたナシールは、もはや善良な学生には見えなくなってくる。敏腕弁護士がナシール事件のさじを投げた結果、ナシール事件はジョンの元に戻ってくる。ジョンは、敏腕弁護士の助手である女弁護士と共に、ナシールの冤罪を晴らすべく奔走する。

よく調べると、被害者アンドレアを殺す動機のある者は他にもいる。真犯人を捜すことでナシールの冤罪を晴らそうとするジョン達。他方、検察側は、ナシールのことを徹底的に調べる。すると、ナシールはジョン達が考えていたような、虫も殺せない善良な学生ではないことが明らかになってくる。

ナイト・オブ・キリングの解説と感想

まず、このドラマは、善良なイスラム教徒が無実の罪を着せられて⇒実は実力者のしょぼくれた弁護士がその疑いを晴らす、なんていう単純なストーリーではありません。

ジョンはリアルにしょぼくれた弁護士ですし、初めこそ無実っぽく見えていたナシールを途中から疑い始めた視聴者は、私だけではないでしょう。

結局、誰がアンドレアを殺したのか、ドラマの中では明らかにされていません。ナシールである可能性だって十分に残っているのです。そこが面白い。

無罪推定の原則

このドラマを楽しむためには、この「無罪推定の原則」をしっかり理解しておく必要があります。「無罪推定の原則」とは「犯罪の犯人として裁判にかけられた人であっても、その人がその犯罪を犯したことが、合理的な疑いを差し挟まない程度に証明されるまでは、その人を有罪とできない=無罪放免にしなければならない」という原則です。

ちょっと意味が分かりにくいですよね。簡単に言えば「80~90%、あの人がやった」と証明されない限り、人は刑務所に送られないということです。

(この「80~90%」のことが、欧米のリーガル・ドラマでは「合理的な疑いを差し挟まない程度」という法律用語で表現されるため、少し分かりにくいものになっています。正確に理解している人は少ないと思います。)

反対に言えば「80~90%」で良いのです。つまり、人を刑務所に送るのに、「100%絶対にあいつがやった」という程の強い証明は要らないということです。反面、「60~70%、この人がやった」程度では人を有罪にできないということです。

ナシールの裁判の途中、ジョン達が色々な人を証人に呼んで来ては「この人が真犯人の可能性がある」と臭わせていました。これは、特定の人を呼んできて「ナシールじゃなくてこいつが真犯人かも」と陪審員に思わせることで、陪審員の「80~90%、ナシールがやった」という心証を崩しているのです。

ナシールがやった可能性が残っているとしても、「80~90%」から「60~70%、ナシールがやった」程度まで心証が崩れれば、ナシールを有罪にできないのですから、疑わしい人は何人いても構わないし、誰か1人が真犯人であることを証明する必要まではないのです。

ちなみに、この原則は日本も同じです。日本語ですと「疑わしきは罰せず」なんて言ったりします。

日本の刑事ドラマだと、真犯人ぽい証人は一人だけですし、しかも実際にそいつが真犯人だったりして、弁護士は裁判の場で自白を導くなどしてそれを証明しています。だから、真犯人を連れて来ない限りは、有罪になってしまうかのように誤解をしている人が多いですが、実はそんな必要はないのですね。

もっとも、真犯人を見つけて来て、裁判の場でそいつが真犯人であることを証明できたら、「80~90%、ナシールがやった」という心証は「ナシールがやった可能性は0%」までに崩れる訳ですから、とても有益な方法であることは否めません。

拘置所と刑務所の違い

拘置所のボスであるフレッドが、「刑務所は遠いから、あえて拘置所に居すわっている」という話をしたのを覚えていますか?拘置所と刑務所、何なら留置所もそうですが、どれがどれなんだろうという感じですよね。

一生入ることのない人が圧倒的多数を占める日本人には、その区別基準がピンと来ないかもしれません。そこで、逮捕~検察取り調べ~裁判~刑務所までの流れに沿って説明します。

まず、犯罪を犯したと疑われる人は、警察に逮捕され警察の留置所に入れられます。これが留置所ですね。通常は警察署の内部にあります。

2日間ほど警察から捜査を受けた被疑者は、「検察に送られます」。カギ括弧をつけた理由は、検察の取り調べを受ける時だけ検察に連れて行かれるからであって、その間の居場所も原則は留置所のままです。

検察がこいつを刑事裁判にかけるぞと決めたら、「被疑者」は「被告人」となり、拘置所(Jail)へ送られます。そして裁判が終わるまで、この拘置所で勾留されます。つまり、拘置所にいる人は皆、「無罪推定」となる可能性のある人たちという訳です。従って、刑務作業などもありません。

最後に、残念ながら有罪となった人が行くのが刑務所(Prison)です。

フレッドの家族の家からは、この刑務所が遠いようです。だからあえて他人の罪をかぶって「裁判待ち」の状態を作ることで、家族の家から近い拘置所に居すわっているのです。

日本の場合、拘置所の数が足りないせいで、刑務所を拘置所として使用するケースが少なくありません。「無罪推定」の精神から考えると望ましくない形ですね。

拘置所の実体を見られる動画

アメリカの拘置所の実体を知りたい方は、『60デイズ・イン ~刑務所潜入60日~』というドキュメンタリードラマがおすすめです。善良な市民が犯罪者になりすまし、拘置所での生活を体験するのですが、何も知らない犯罪者(推定無罪)の中で生活をする市民の様子を、自動カメラで撮影したものです。

本国アメリカでは大人気のシリーズとなっており、アメリカでは現在シーズン4が放送中です。

(ちなみに『刑務所』と訳されていますが、潜入するのは『拘置所』です。誤訳でないなら、日本と同じように刑務所と拘置所がごっちゃになっている地域なのかもしれません。)

ナイト・オブ・キリングの感想

まず、ナシールがやったのかどうかは置いておいて、警察を責められないですよね。あの状況では、どう見てもナシールがやったようにしか見えません。なかなか善人である刑事のボックスすら、ナシールがやったと決めつけていました。

純朴な青年に見えていたナシールは、拘置所の中で様変わりしていきますが、気持ちは分かります。ああしないと生き残れないのですよね。それにしても、髪型と筋肉とタトゥーだけであんなにも違う人に見えるなんて、あの俳優さんの演技力が恐ろしい。

このドラマでもう1人忘れてはいけないのが、弁護士のジョン・ストーンです。決して腕が立つ訳ではありませんが、どんな事件でもたった250ドル(2万5千円くらい)で引き受けるのですから、貧乏人の見方であることは間違いない。

途中、敏腕女弁護士に事件を奪われた時は、悔しそうでしたね。普段、娼婦だとか傷害だとか、冤罪ではない犯罪の犯人の弁護ばかりをしていたジョンにとって、冤罪の弁護はやり甲斐を感じられる仕事だったのでしょう。

猫を愛でる姿も、とてもかわいかった。きっと猫好きなんですね、ジョンは。アレルギーさえ無ければ、もともと猫を飼ってそうなくらいのかわいがりようでした。気落ちし過ぎて猫を手放した時は、ショックで私が泣きそうになりましたが、無事に引き取れてよかった…(結局、涙)。

一番報われない役だったのが、若手女弁護士のチャンドラではないでしょうか。弁護士の資格を奪われそうになっています。

そもそも、一旦は確実に「十中八九、ナシールがやった」を「ナシールじゃない可能性もなくはない」程度まで崩せたんですよね。つまり、無罪推定を勝ち取れたはずだった。

にもかかわらず、若さ故に暴走し、危険な賭にでて「絶対、ナシールじゃない」を勝ち取ろうとしてしまった。ナシール本人に証言させたことで、かえってナシールをあやしく見せてしまい、せっかく勝ち取った無罪推定が危うくなりました。

挙げ句、ナシールは多分、チャンドラが好きじゃない(笑)。ナシールはアンドレアが好きなままっぽいですよね。好きな女に薬なんか運ばせないし。

最終的に誰が犯人だったのか判明しないことは、視聴直後は「すこしスッキリしないわ~」と感じていましたが、刑事弁護の実態はこんなものなのかも知れないと思うと、この終わり方にはそういう意味があるのかも知れないと思えてきました。

つまり、この世の様々な事件は、裁判で有罪にできない限り、「多分あいつなんだけど、十中八九とまでは言えない」状態で進展しないのですよね。ナイト・オブ・キリングのすっきりしない終わり方は、そういう現実を暗示しているのかも知れません。

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ナイト・オブ・キリングの配信状況と関連記事

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ナイト・オブ・キリング 配信状況

ナイト・オブ・キリングは本国アメリカでシーズン1まで放送されています。シーズン2の制作は未定です。ナイト・オブ・キリングの日本国内の配信状況は、こちらのナイト・オブ・キリング配信スケジュールでご確認ください。

面白いクライム・サスペンスをお探しの方には、こちらの『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』もおすすめです。

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